タイ中古車市場に潜む走行距離改ざんの実態!プロ査定士が見抜く方法

タイで中古車を探していると、

「この年式で、この走行距離?」

と思うほど、低走行の車に出会うことがあります。

年式が比較的新しいのに走行距離が少ない。
内外装もきれいで、価格も魅力的。

一見すると、「掘り出し物」に見えます。

しかし、そのメーターに表示されている数字を、本当に信じていいのでしょうか?

中古車検査の現場に長く携わっていると、走行距離は車の状態を判断する重要な情報である一方、**「数字だけでは判断できない」**ということを強く感じます。

今回は、タイの中古車市場で注意したい「走行距離改ざん」と、その違和感を見抜くために、一般の方でもできるチェックポイントをご紹介します。

日本とタイ、ここまで違う「走行距離」の管理

そもそも、なぜ走行距離の改ざんが問題になるのでしょうか。

それを理解するには、日本とタイの中古車流通における「履歴管理」の違いを見る必要があります。

日本では「車の履歴」が複数の場所に残る

日本の中古車市場では、
● 車検時の走行距離
● ディーラーでの整備記録
● 定期点検記録
●買取・下取り時の査定記録
●オークションでの出品情報
●第三者鑑定の記録

など、車両の走行距離を確認できる機会が数多くあります。

もちろん、日本でも走行距離に関する不正が絶対にないわけではありません。

しかし、複数の履歴を照合できる環境が整っているため、メーターの数字だけを変更しても、過去の記録との間に矛盾が生じやすいのです。

つまり、日本の中古車市場では「現在のメーター」だけではなく、車がこれまでどのような履歴を歩んできたのかを確認しやすい仕組みがあります。

「アメ車は壊れる」というイメージは、どこから生まれたのか?

ここで、少し昔の日本の中古車市場を振り返ってみましょう。

今から30年ほど前、日本では一時期、アメ車が大きな人気を集めました。

その代表格ともいえるのが、シボレー・アストロです。

大きなボディ、独特のデザイン、広い室内。

当時の日本車にはない存在感があり、アメ車に憧れて購入した人も少なくありませんでした。

しかし、その後、日本では次第に、

「アメ車は壊れやすい」

「アメ車は維持費が高い」

というイメージが広がっていきます。

もちろん、当時のアメリカ車には、日本車とは異なる設計思想や部品供給、整備環境などがあり、故障や維持費の問題がなかったわけではありません。

一方で、中古車市場を考えるうえで、もう一つ見逃せないポイントがあります。

それが、

「その車が実際に何km走っていたのか?」

という問題です。

当時の中古輸入車の中には、現在のように車両履歴を簡単に追跡できないものもありました。

メーターに表示された走行距離が、その車の実際の走行距離を正確に示しているのか。

それを購入者が確認することは、今よりも難しい時代でした。

例えば、実際にはかなりの距離を走っている車が、低走行車として販売されていたとします。

購入者は、

「この車なら、まだ大丈夫だろう」と考えて購入します。

ところが、実際にはすでに相当な距離を走っている。

その結果、購入後に故障や部品交換が相次ぐ。

そして購入者は、「やっぱりアメ車は壊れる」と感じる。

もちろん、これだけがアメ車のイメージ形成の理由だったとは言えません。

しかし、車両の実際の使用状況や走行距離が購入者に正確に伝わらなかったことが、中古アメ車に対する評価やイメージに影響した可能性はあります。

ここに、中古車市場の非常に重要なポイントがあります。

「壊れた」のではなく、「壊れる時期を知らなかった」

中古車にとって、走行距離は単なる数字ではありません。

それは、

「その車がどれだけの時間、どれだけの負荷を受けてきたのか」

を判断するための重要な情報です。

例えば、実際には15万km走っている車が、メーター上では8万kmになっていたとします。

購入した人は、「8万kmなら、まだまだ大丈夫だろう」と考えて購入するかもしれません。

しかし、車そのものはすでに15万km分の走行負荷を受けています。

エンジン、トランスミッション、サスペンション、ブッシュ類、冷却系統、エアコン関連部品など、さまざまな部品が相応に消耗している可能性があります。

そして購入後、「買ったばかりなのに故障した」「思った以上に修理費がかかる」

という事態につながることがあります。

つまり、走行距離の改ざんは、単純に「数字が違う」という問題ではありません。

本来なら購入前に知っておくべき車の消耗状態を、見えなくしてしまう可能性がある。

これが、走行距離を確認する重要な理由です。

タイでは「数字」だけで判断するのが危険な理由

タイでも中古車市場のデジタル化や車両情報の管理は進んでいます。

しかし、日本と比較すると、車両履歴がすべて一つにつながり、過去から現在まで簡単に追跡できる環境には、まだ課題があります。

そのため、

「メーターに表示されている走行距離=実際の走行距離」

とは限りません。

走行距離の変更には、メーターそのものの書き換えだけでなく、メーターや関連ユニットの交換など、さまざまなケースがあります。

だからこそ、中古車を見るときには、

「メーターが何kmを表示しているか」

だけではなく、

「その数字を裏付ける証拠があるか」

を見ることが重要なのです。

初心者でもできる!プロが見る「違和感」のチェックポイント

では、一般の方はどうやって走行距離の違和感を見つければいいのでしょうか。

実は、特別な診断機がなくても確認できるポイントがあります。

その一つが、

「ハンドルカバー」です。

中古車を見に行ったとき、ハンドルにカバーが付いている車を見たことはありませんか?

もちろん、ハンドルカバーが付いているからといって、

「走行距離が改ざんされている」

という意味ではありません。

ただし、プロの目線では、

「なぜカバーが付いているのか?」

という疑問を持つことが重要です。

なぜハンドルカバーを見るのか?

ハンドルは、運転中に常に手が触れる部分です。

そのため、使用年数や使用状況に応じて、
● 表皮の摩耗
● テカリ
● 擦れ
● 色落ち
● ひび割れ
● ステッチ部分の劣化

などが現れることがあります。

特に、本革や合皮のハンドルでは、長期間使用された車ほど手が触れる部分に使用感が出やすくなります。

そこでチェックしたいのが、

「ハンドルカバーの下」

です。

ハンドルカバーをめくってみる

もし中古車にハンドルカバーが装着されていたら、販売員に確認したうえで、一度カバーを外してもらいましょう。

そして、ハンドルそのものを確認します。

例えば、

「メーターは6万kmなのに、ハンドルの摩耗が明らかに強い」

「走行距離の割には、表皮が不自然なほど擦れている」

「ハンドルだけ極端に使用感がある」

といった場合には、

「この車、本当にこの走行距離なのだろうか?」

と疑問を持つきっかけになります。

ただし、これはあくまで一つの判断材料です。

ハンドルの摩耗は、走行距離だけで決まるものではありません。

運転者の体格や握り方、使用環境、駐車環境、車種、素材などによっても変わります。

また、中古車販売店が商品価値を高めるために、ハンドルや内装部品を交換・修理しているケースもあります。

だからこそ、

「ハンドルが擦れている=改ざん車」

と決めつけるのではなく、

「メーターの数字と車の状態が一致しているか?」

を見ることが大切なのです。

個体差もあります。

可能であれば、同じ車種・同じような年式の車を数台見比べてみるのも一つの方法です。

「この車だけ、なぜこんなに使用感が強いのか?」

という比較から、違和感が見えてくることがあります。

プロは「走行距離」ではなく「車全体」を見る

実際の車両検査では、走行距離だけを見て判断することはありません。

例えば、
● ハンドル
● シート
● シフトノブ
● ペダル
●ドアハンドル
●各種スイッチ類
●タイヤ
●ブレーキ
●エンジンルーム
●整備記録
●車両履歴

など、さまざまな情報を組み合わせます。

さらに、中古車販売店で部品交換や修理、
内装のリフレッシュが行われていないかという点も考慮します。

そして、

「メーターの数字と車両の状態に矛盾がないか」

を確認します。

例えば、

「走行距離5万km」

と表示されているのに、

ハンドル、シート、シフトノブなどに強い使用感がある。

この場合、すぐに「改ざん」と断定するのではありません。

重要なのは、

「なぜこの状態なのか?」

と疑問を持つことです。

その疑問を、整備記録や車両履歴、他の部品の状態などから一つずつ確認していきます。

これが、プロが行う車両チェックの基本的な考え方です。

「低走行=良い車」とは限らない

中古車選びでありがちな失敗が、

「走行距離が少ない車を選べば安心」

という考え方です。

しかし、本当に重要なのは走行距離だけではありません。

例えば、同じ10万km走行した車でも、

きちんと定期的に整備されてきた車と、ほとんど整備されてこなかった車では、状態が大きく違う可能性があります。

逆に、走行距離が少なくても、長期間ほとんど動かされていなかった車や、適切なメンテナンスがされていない車には注意が必要です。

つまり、

「何km走ったか」だけではなく、「どのように使われ、どのように整備されてきたか」

を見る必要があります。

中古車選びでは、走行距離を「評価」するのではなく、車両全体の状態を判断するための「情報の一つ」として捉えることが重要です。

最後に:信じるべきなのは「数字」ではなく「履歴」

タイで中古車を選ぶとき、

「低走行だから安心」

「5万kmだからまだ大丈夫」

という数字だけで判断するのはおすすめできません。

メーターに表示された数字は、あくまで車両を判断するための一つの情報です。

重要なのは、その数字を裏付ける情報があるかどうか。

整備記録、過去の車両情報、点検履歴、車両の状態など、複数の情報を照らし合わせて判断することが大切です。

そして、少しでも違和感があれば、

「なぜ、この車はこの状態なのか?」

と、一度立ち止まって考えてみてください。

すべてのハンドルカバーが隠蔽のために付けられているわけではありません。

すべての低走行車が怪しいわけでもありません。

販売店を疑うことが目的でもありません。

大切なのは、

確認するべきところを確認すること。

そして、自分だけで判断できない場合は、販売店とは利害関係のない第三者による車両検査を活用することです。

30年前の日本の中古アメ車市場から、現在のタイの中古車市場まで。

市場が変わっても、基本的な考え方は変わりません。

中古車は、新車と違って「過去」があります。

その過去を正しく知ることが、購入後のトラブルを減らすための最も重要なポイントです。

中古車選びで本当に見るべきなのは、

「何万km走ったか」ではなく、「その数字を信じられるだけの履歴と車両状態があるか」。

数字ではなく、車が歩んできた履歴を見る。

それが、タイで中古車を購入するときに身につけておきたい、最も重要な視点の一つです。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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